新規事業が育たない組織の構造的欠陥

「両利きの経営」を阻む既存事業の評価制度
多くの中小企業が直面する「第2の柱となる新規事業が育たない」という深刻な悩み。
実は、この根本原因を理解しておかないと、新規事業は何をやっても失敗してしまいます
。
「今の既存事業が好調なうちに、新しい種をまかなければならない」
そう考えて新規事業部を立ち上げ、社内のエース級の人材を投入したとします。しかし、
いざ蓋を開けてみると、既存事業の現場からはこんな声が上がります。
「あいつらは遊んでいる」
「こっちの利益を削ってまでやる意味があるのか」

このような冷ややかな目にさらされ、新規事業の担当者は孤立し、結局プロジェクトが立
ち消えになってしまう……。これは決して、新規事業担当者の「能力不足」が原因ではあ
りません。
貴社の「既存事業に最適化されすぎた評価制度」が、新しい芽を無意識に摘み取っている
可能性が高いのです。
本記事では、なぜ新規事業が育たないのか、そのメカニズムを経営学の理論から論理的に
紐解き、成長を加速させるための「評価制度の二階建て」について解説します。
なぜ既存事業の成功が新規事業の邪魔をするのか?
この問題を世界的に有名にした、スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授らが
提唱する「両利きの経営(Ambidexterity)」という理論をご紹介します。

オライリー教授は、企業が長期的に生き残るためには、相反する2つの活動を同時に行う
必要があると説きました。
知の深化(Exploitation):既存事業を深掘りし、効率化や改善を徹底して利益を最大化す
ること。
知の探索(Exploration):既存の枠組みを超えて、新しい可能性やビジネスモデルを探し
続けること。
問題は、この2つが「全く異なる原理」で動いているということです。
「知の深化(既存事業)」は、失敗を減らし、効率を上げ、正確な計画と数値管理を求め
ます。対して「知の探索(新規事業)」は、あえて無駄なことを試し、多くの失敗を経験
し、不確実な未来に賭けることが求められます。
組織が陥る「構造的欠陥」の正体
多くの中小企業が陥る構造的欠陥は、既存事業の「効率と確実性」を測る物差し(評価制
度)で、新規事業の「試行錯誤と不確実性」を測ろうとすることです。
既存事業のエースが新規事業を批判するのは、彼らが「効率こそが正義」という評価制度
の中で正しく育ってきたからです。彼らの物差しでは、新規事業は「非効率で、計画性が
なく、失敗ばかりしているダメな仕事」に見えてしまいます。
この評価制度のズレが、組織内に「イノベーションへの拒絶反応」を引き起こすのです。

「探索」を殺さないための人事評価、3つのステップ
では、既存事業を守りながら、同時に新規事業を育てる「両利き」の組織を作るにはどう
すればよいのでしょうか。明日から取り組むべき3つのステップをお伝えします。
新規事業に対して、既存事業と同じように「今期の売上」や「利益率」を求めてはいけま
せん。
知の探索フェーズでは、「どれだけ打席に立ったか(仮説検証の数)」や「どれだけ質 の高い失敗から学習したか」を評価の指標(KPI)に据えてください。既存事業とは全く
別の物差しを用意し、それを全社に公表することが重要です。

新規事業担当者の人事評価は、最低でも2〜3年の長期スパンで考える必要があります。短
期的な単年度評価では、担当者はリスクを恐れて「既存事業の延長線上にある小さな改善
」しかやらなくなります。
人事評価制度の中に、「不確実な領域への挑戦」や「未知の課題の特定」を高く加点する
項目を設けましょう。結果が出る前であっても、そのプロセスを正当に評価して給与や等
級を担保する仕組みの構築が不可欠です。

新規事業を既存事業の部門の傘下に置いてはいけません。必ず経営者直轄の組織として分
離してください。
そして、既存事業が苦しくなった時に、新規事業の予算や人員を真っ先に削るような「ハ
シゴ外し」は絶対にしないと約束してください。新規事業の予算を「聖域」として守り抜
く経営者の姿勢こそが、担当者に本当の挑戦を可能にする心理的安全性をもたらします。
まとめ:5年先も生き残る強い企業を作るために
新規事業が育たないのは、個人の才能の問題ではなく、組織の「評価の重力」が強すぎる
からです。
既存事業を磨き上げる「右足」と、新しい未来を探索する「左足」。この2つの異なるス
テップを、異なるルール(評価制度)で支えること。それこそが、10年、20年先も生き残
る強い中小企業を作るための、経営者の最も重要な仕事です。
「新規事業を始めたいが、どんな組織体制で臨めばいいかアドバイスが欲しい」という方
は、無料相談も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。