社長は仕組みに投資しろ

「優秀な人材さえ採用できれば、会社は伸びる」
そう信じて、採用や給与アップには積極的にお金を使う一方で、「仕組み」への投資は後回しにしていないでしょうか。
じつは、ここに中小企業が伸び悩む大きな落とし穴があります。社長が本当に投資すべきなのは、「人」より先に「仕組み」である、ということです。

なぜ「人」より先に「仕組み」なのか
経営は「再現性のある成果」をつくる仕事です。 ここでカギになるのが「再現性」。つまり、
「誰がやっても、ある程度同じ成果が出る状態」をどこまでつくれるか。
・営業はAさんがやると決まるが、Bさんだと全然ダメ
・店舗は店長によって売上がバラバラ
・案件管理は、担当者の“頭の中”にしかない
この状態では、「人に依存した経営」になってしまいます。
人に依存した経営は、一見ラクですが、次のようなリスクが常について回ります。

- キーマンが辞めた瞬間に、売上が大きく落ちる
- 人が増えるほど、ミスやクレームも増える
- 社長が現場に張り付き続けないと、質が維持できない
反対に、「仕組みに投資している会社」はこうなります。
- 新人でも、一定レベルの成果が出せる
- 担当者が変わっても、顧客が混乱しない
教育コストが毎年下がり、利益率が改善する つまり「仕組みへの投資」は、収益性と安定性に直結する“経営の土台”への投資なのです。
また、人事の視点で見ても、仕組みに投資していない会社ほど「人が育たない・定着しない」という悩みを抱えています。
- OJTと称して丸投げ
- 評価基準があいまい
- 人によって言うことが違う
- 属人的なやり方が“その人の正解”になっている
こうした環境だと、どれだけ優秀な人を採用しても、「会社としての力」になりきれないのです。
逆に、仕組みが整った会社は、こうなります。
育成のステップが明確で、社員が自走しやすい
評価基準がわかりやすく、納得感がある
「個人技」ではなく「組織力」が積み上がる つまり、人事の立場から見ても、「人が活躍できる土台=仕組み」への投資が先なのです。

少し実例をあげますと
実例①:属人営業から「仕組み営業」への転換で利益率アップ
あるBtoBサービス企業(従業員30名)の例
この会社は、営業エースが2人おり、売上の大半をその2人がつくっていました。
一方で、他の営業は数字が伸びず、社長は「もっと優秀な営業を採用しなければ」と考えていました。
そこで、経営改善のテーマとして提案したのが、「営業の仕組み化」への投資です。
具体的には:
- トップ営業2人に同行し、「受注までのプロセス」を可視化
- ヒアリングシート・提案書テンプレート・トークスクリプトを作成
- 案件管理ツールを導入し、「誰が・どの案件を・どのフェーズで・どう止めているか」を見える化
- 毎週1回、営業会議で「案件の進め方」そのものを共有・フィードバック
この施策を半年程続けていただくと、次のような変化が起こりました。
- トップ営業の「やり方」が組織の標準となり、他のメンバーの受注率が向上
- 新人でも3ヶ月で一定の数字を出せるようになった
- 営業会議が「詰める場」から「ノウハウを共有する場」に変化
- エースの2人が、育成・戦略にも時間を使えるようになった
結果として、「採用コスト」を増やさなくても、売上は前年対比約130%、利益率も改善しました。
この会社がやったことは、「人を増やす前に、今いる人が成果を出せる仕組みに投資した」だけです。これが、経営視点から見た「仕組みへの投資のリターン」の典型例です。

実例②:評価制度を“仕組み化”して人が辞めなくなった会社
次は、人事コンサルタントとして関わった、あるIT企業(従業員20名)の例です。
この会社の悩みは、「若手が2〜3年で辞めてしまう」ということでした。
ヒアリングをしてみると、こんな声が出てきました。
- 「何を評価されているのか、よくわからない」
- 「昇給の基準が見えないから、不安になる」
- 「結局、社長の好き嫌いで決まっているように感じる」
そこで行ったのが、「評価と育成の仕組み」への投資です。
具体的には
- 会社として求める人材像・行動指針を言語化
- 職種ごとに、求められるスキル・行動を“レベル表”として整理
- 評価シートを作り、「何ができれば評価されるか」を明確化
- 評価面談の進め方を整え、上司がフィードバックできるようにトレーニング
これにより、社員側にはこんな変化が起きました。
- 「何を頑張ればいいか」が見えることで、モチベーションが上がった
- 上司との面談が“説教の場”から“成長の相談の場”に変わった
- 「この会社でどんなキャリアが歩めるか」が想像しやすくなった
結果として、離職率は下がり、3年目以降の社員が増えたことで、組織としてのノウハウも蓄積されるようになりました。
ここでもカギは、「給与アップ」より前に、「評価と育成の仕組み」へ投資したことです。
人事的な問題も、結局は「仕組み」の問題であることが多いのです。

社長が今すぐ投資すべき「3つの仕組み」
経営と人事の両方の視点から、優先して投資すべき仕組みを3つ挙げます。
① 業務プロセスの見える化と標準化
主力事業の「受注〜納品・回収」までの流れを図にする
各工程で「誰が・何を・どの基準で行うか」を明文化する
チェックリストやテンプレートを整える
これは、売上と品質を安定させるための仕組みです。
② 営業・マーケティングの仕組み
リード獲得〜商談〜受注までのプロセスを定義
顧客情報・案件情報をツールで一元管理
「うまくいったパターン」をチームで共有する仕組みをつくる
これは、売上を「偶然」から「必然」に変える仕組みです。
③ 評価・育成の仕組み
会社として大事にする価値観・行動を言語化
職種・レベル別に「求める状態像」を定義
面談やフィードバックのやり方を整える
これは、人が育ち、定着し、組織力が積み上がる仕組みです。
「仕組みへの投資」は地味だが、確実に効く
仕組みづくりは、広告のようにすぐ反応が見える投資ではありません。システム導入やマニュアル作り、制度設計は、どうしても“地味”に見えます。
しかし、1年・3年というスパンで見ると、仕組みに投資してきた会社と、場当たり的な採用・人海戦術で乗り切ってきた会社の差は、決定的になります。
優秀な人材が集まるのは、「仕組みがある会社」です。
既存の人材が活躍するのも、「仕組みがある会社」です。
社長が現場から離れても回るのも、「仕組みがある会社」です。

まとめ 社長は「仕組み」にこそ投資すべき
利益を生むのは「一部のスーパーマン」ではなく、「再現性のある仕組み」です。
人を活かすのは「根性論」でも「採用数」でもなく、「成長と評価の仕組み」です。
もちろん、人への投資も大切ですが、その前提としての「仕組み」への投資を後回しにしてしまうと、せっかくの人材投資が十分に回収できません。
「人に頼る経営」から「仕組みに支えられた経営」へ。
社長が本気でそこに舵を切ったとき、会社はようやく“伸び続ける組織”へと変わっていきます。
まずは、みなさんの会社で
「人に依存している領域はどこか?」
「仕組みに置き換えられる部分はどこか?」
を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。そこに、次の成長の芽が隠れています。