退職理由は組織改善のチャンス?

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社員の退職は、経営にとって痛みであると同時に、貴重な情報の宝庫でもあります。退職理由に向き合うとは、単に「なぜ辞めたか」を聞くことではなく、背景を読み解き、組織の仕組みや文化を改善していくことです。本稿では、ある中堅製造業の事例を通じ、退職理由の収集・分析・改善を戦略的に進めたプロセスと得られた成果をご紹介します。退職は終わりではなく、組織改善の始まりです。

目次

問題設定:表層の言葉と本質のギャップ

A社(従業員約300名)では、30代前半の技術職に退職が集中し、年間離職率の上昇が問題になっていました。表向きの退職理由には「家庭の事情」や「キャリアチェンジ」といった言葉が並びますが、これらは“角の立たない表現”です。本当に重要なのは、その理由の背後にあるマネジメントや業務設計、評価制度などの構造的要因をどう見つけ出すかです。言葉尻を追うだけでは、同じ失敗を繰り返すことになります。
データ収集と分析の骨子:質と量を両立させる

データ収集と分析の骨子:質と量を両立させる

私はまず、退職面談の実施体制を見直しました。直属上司による面談は本音が出にくいため、人事担当者が面談を行い、同時に匿名アンケートを導入しました。

面談は事実(いつ、どこで、誰が、何をしたか)を引き出す設問を中心に構成し、定量データ(残業時間、欠勤、評価推移)と突合して分析しました。質的な証言と量的な兆候が揃うことで、課題特定に足る説得力のある仮説が浮かび上がります。

見えてきた構造的課題

分析の結果、A社には以下のような課題が浮かび上がりました。

  • マネジメントの属人化:フィードバックや仕事の割当が上司ごとにバラつき、評価の一貫性が欠けている。
  • キャリアの見通し不足:技術職が社内でどのように成長し、どの程度報われるかが不透明である。
  • 業務負荷の偏在:特定部署に業務が集中し、慢性的な過重労働が発生している。
  • 報酬・評価の透明性不足:評価と昇給・処遇が連動しておらず、努力が評価に反映されないという感覚が広がっている。

改善施策:改善案を短期・中期・長期で分け取り組む。

短期(1〜3か月)

  • 退職面談で得た事例を匿名化して関連部署へフィードバック。具体的改善点を上席と合意。
  • 残業が偏る社員に対し、業務再配分や一時的な補助リソースを投入。
  • 退職面談の定常化とデータベース化(テンプレート化して継続的に蓄積)。

中期(3〜12か月)

  • 管理職向けに評価・フィードバック研修を実施。行動ベースの評価基準を導入し、ロールプレイで習熟を図る。
  • 技術職向けにスキルレベル(レベル1〜5)を設定し、各レベルに期待される業務・報酬・成長経路を明示。
  • 業務プロセスの可視化ワークショップを行い、自動化や外部委託の候補を洗い出す。

長期(1年以上)

  • 評価制度の見直しと報酬連動の仕組み化。透明性のある昇給プロセスを運用ルールに落とす。
  • RPA・システム化を推進して定型業務を削減し、恒常的な残業削減を実現。
  • 定性評価を試行導入し、管理職の昇進要件に反映。

効果

施策開始から18か月で、次のような成果が確認できました。

主な定量成果
  • 全社離職率は12.5%から8.1%へ低下。
  • 問題視されていた30代前半の技術職は17%から7%に改善。
  • 部門平均の月間残業時間は18%削減。残業上位の部署では30%削減を達成。
  • 早期離職(入社1年未満)は半減。
主な定性成果
  • アンケートや面談で「評価が透明になった」「上司と対話する回数が増えた」といったポジティブな声が増加。
  • 技術職からは「社内での成長ルートが見えた」という反応が上がり、エンゲージメントスコアにも改善が見られた。
  • また、管理職の行動変容(フィードバック増、業務調整の先行化)が確認されました。
副次効果
  • 離職率低下による採用コストの削減(年間で概ね10%程度の改善)。
  • 現場発の改善提案が増え、組織内に小さな成功体験が積み重なった。

今回の施策のポイントは、「聞くことと動くこと」のセット

聞く仕組みがあるだけでは不十分です。声を集めたら、速やかにアクションを示す――その一連の流れが信頼を生みます。

マネジメント品質向上とキャリア設計はワンセットで進めるべきです。どちらか一方だけでは、従業員の実感に届きにくい。

定性的な事例と定量的なデータの両方を提示することが、課題を特定するうえで有効です。

退職を「痛手」として片付けるのは簡単ですが、そこには組織改善のヒントがあります。聞くことは謙虚さを必要としますが、そこから始まる改善は組織を確実に強くします。

退職に真摯に向き合い組織改善の機会にしたい方には、退職面談テンプレートや改革優先度判定シートを無料でプレゼント致しますので、お気軽にお問い合わせください。

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