会社の組織構造自体が社員の主体性を阻む?

現代のビジネス環境は急速に変化しており、企業は競争力を維持するために新しいアイデアや斬新なアプローチを求められています。その鍵となるのが社員一人ひとりの主体性です。組織がいかに優れた戦略を持ち得ても、社員の主体性が発揮されなければ、その潜在能力は完全には引き出せません。
主体性は内発的動機から発生します。内発的動機とは、外部の報酬や評価に依存せず、自身の興味や好奇心、達成感から生まれる推進力です。内発的動機の構成要素については、主に心理学者のエドワード・デシ(Edward Deci)とリチャード・ライアン(Richard Ryan)の「自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)」が有名です。デシとライアンの理論によれば、内発的動機は自己決定感、関連性、そして有能感の3つの基本的な心理的必要性を満たすことで促進されるとされています。
この内発的動機が高まることで、創造性や生産性が向上し、自己成長へとつながることが一般的には知られているので、企業からすれば、社員の主体性を発揮してほしいところではありますが、組織の構造自体が内発的動機を阻む構造になっているというジレンマがあるのです。職場環境や教育システムが与えるプレッシャー、目的の不明瞭さ、過度な期待や評価基準、さらには自身の心的状態までもが影響を及ぼします。これらの要因が働くことで、原動力としての内発的動機が徐々に弱まり、無力感や倦怠感を生む原因になります。その結果企業の競争力も落ちていってしまいます。
主体性を阻害する要因
組織構造が社員の主体性を阻害する要因は何でしょうか?まずは従来の組織構造がどのように形成され、どのように機能しているのかを理解することが重要です。本記事では、心理的、文化的視点を通じて、組織構造が持つ特有の課題を明らかにし、それがどのように主体性の育成を阻んでいるのかを考察します。また、そのような状況でいかに主体性を発揮出来る環境を作ることが出来るのかを後述します。個の力が組織の成長を促進するための方法としてお役に立てれば嬉しいです。
組織構造は、多くの場合、効率的な業務運営や明確な役割分担を目指して設計されています。通常、この構造は階層型であり、指揮命令系統がトップダウン方式であることが多いため、意思決定は通常、管理職や上層部に集中します。これにより、業務の均質化やコントロールの容易さは得られるものの、社員個々の創造性や自発的な行動を抑制してしまうリスクも同時に存在します。
厳格な役割分担と決定事項の集中化が社員の自主性を抑え込む理由はいくつかあります。
1. 意思決定の機会の制限
- 強い階層構造: 組織が厳格な役割分担を持っている場合、意思決定が上位の管理職やリーダーに集中します。社員は自己の役割の範囲に限定された指示を待つことになり、自発的に意思決定を下す機会が奪われます。このことは、自ら考え行動する意欲を減少させ、受動的な姿勢を招く要因となります。
2. 役割の固定化
- クリエイティビティの制約: 明確に定められた役割は、社員が自らの職務範囲を超えた行動や提案を行うことに対して躊躇を引き起こします。これにより、創造的なアイデアや新しいアプローチを持ち寄ることが難しくなり、個人の自主性が抑制されることになります。
3. 責任感の低下
- 指示待ちの文化: 決定が上から下される環境では、社員は自分が主体的に責任を持たなければならないという意識が薄くなります。自らの行動が業務や成果に影響を与えるという感覚がなくなるため、主体的に取り組む動機が低下します。
4. リスク回避への傾き
- 安全圏内の行動: 意思決定が上層部に集中していることで、社員は自分の意見が評価されにくいと感じ、リスクを避ける傾向が強まります。その結果、新しいアイデアに挑戦するよりも、指示された通りの業務を遂行することに安心感を見出すようになります。
5. 職務満足度の低下
- 自己成長の機会の欠如: 自身の役割の範囲が狭く、成長の余地が限られている場合、社員は自分の仕事に対するモチベーションが低下することがあります。自主性が欠如すると、結果的に職務満足度が下がり、離職率の増加や職場の活気の低下につながる可能性があります。
これらの要因が相互に関連し合い、厳格な役割分担や決定の集中化は、社員の自主性を抑え込むことが多くあります。さらに、リスクを回避しようとする組織文化も、社員の主体性の障壁となります。創造的な試みが厳しい審査を受け、失敗への許容度が低い組織では、社員はリスクを冒すことを恐れるようになります。このような環境では、イノベーションが進まず、結果的に企業の成長や変革が滞る可能性が高まります。
こうした課題を克服するためには、組織構造の再考が不可欠です。フラットな組織モデルやクロスファンクショナルチームの導入は最も一般的な方法であり、有効でもありますが、ここでは組織構造自体はあまり変化させず、従業員を主体性がある人材に育てる方法を記載します。
すぐに取り組めること
1. ビジョンと目的の明確化
- 共通のビジョンを共有:
- 例: 定期的な全社ミーティングを開催し、会社のビジョンや長期的な目標、戦略を明確に伝えます。また、ビジョンを具体的な例や成功事例を交えて説明することで、社員がその重要性を理解しやすくなります。ここでのポイントは継続的に発信するということです。浸透しているか否かの前に続けるということを意識してください。
2. 目標設定の一体化
- 個別の目標を会社の目標に整合させる:
- 例: 各従業員の目標設定時に、チームや会社の目標にリンクさせる「OKR(Objectives and Key Results)」等のフレームワークを導入してみるのも有効です。これにより、個人の目標が会社全体の目標と整合性を持ちやすくなります。目標設定においては、社員の自己満足とならないように気を付けましょう。
3. 定期的なコミュニケーション
- 進捗状況のチェック:
- 例: 四半期ごとに進捗レビューを行い、各従業員が設定した目標が会社の目標とどのように関連しているかを確認します。これにより、社員は自身の業務が企業に与える影響を理解し、目標の再評価が行いやすくなります。
4. 学びと成長の環境作り
- 教育・研修機会の提供:
- 例: 社員が必要なスキルや知識を身に付けるための研修プログラムを提供し、成長できる環境を整えます。成長に対するサポートを通じて、個人と組織の目標が調和しやすくなります。意図的にアウトプットする機会もセットしてください。
5. フィードバックの活用
- 建設的なフィードバックを促す:
- 例: 定期的な面談を設け、上司が従業員の目標達成状況を確認し、データや数値をもとにフィードバックを行います。フィードバックを通じて、個人の目標と会社の成長に関する考慮が促進されます。
6. 成果の共有と認識
- 成功をともに祝う文化の構築:
- 例: 目標を達成した社員やチームの成果を全社的に祝う場を設け、成功体験を共有します。これにより、個人の貢献が組織全体に如何に影響を及ぼすかを理解しやすくなります。
7. 柔軟性を持たせる
- 目標達成のための調整ができる文化:
- 例: 定期的な目標の見直しを行い、外部環境や市場の変化に応じて目標を適宜調整できる柔軟なプロセスを確立します。これにより、個人が異なるニーズや興味を持つ中でも、組織目標を達成しやすい環境を作ります。頻繁に目標が変わると達成意識がなくなりますので、予め変更の際にはルールを設定しておくとよいでしょう。
組織構造上の課題をクリアしていく
これらのアプローチを組み合わせることで、従業員自身の目標と会社の目標が整合し、ズレを防ぐ土台を築くことができます。重要なのは、透明性とコミュニケーションを重視し、両者が共鳴する関係を形成していくことです。フォームの始まり
組織の構造自体に内発的動機を阻む要因はありますが、目標を合わせ、達成させることで有能感や、自己決定感を満たすことが出来ますし、目的を共有する施策で関連性にも影響を与えることが出来ます。主体性がある従業員が増えれば、企業も成長しますので、経営者は働く環境を上記のような観点で作っていくことが重要ですね。