中小企業における採用市場の現況

はじめに
日本の労働人口は減少傾向にあり、特に中小企業において人材の獲得はますます難しくなっています。労働力人口の減少は、経済成長や企業の発展に直接的な影響を及ぼすため、中小企業はその克服策を考える必要があります。本稿では、中小企業における採用市場の現況を分析し、労働人口減少の影響や採用ミスマッチの問題について考察します。
労働人口の減少とその影響日本の労働人口は、少子高齢化の進行に伴い、今後も減少する見込みです。2030年には6300万人(総務省より抜粋 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc135230.html )と言われています。このような背景の中で、大企業は、ブランド力や給与面で中小企業に比べ優位に立つため、中小企業は優秀な人材を確保することが一層難しくなっています。
中小企業が直面する課題
中小企業が採用市場で直面している主な課題として、次の三つが挙げられます。
- 採用コストの増加: 優秀な人材を引き寄せるためには、競争力のある給与や福利厚生を提供する必要があります。資本が限られる中小企業にとって、この負担はかなり大きいです。
- 採用ミスマッチのリスク: 採用プロセスにおいて、求職者と企業の間で期待値や文化が合わない場合、採用後の離職率が高まります。特にトレーニングや育成費用をかけた後に発生すれば、経済的な損失は計り知れません。
- 人材の流動性の高まり: 求職者は多様な選択肢を持つため、良い条件を提示する企業に流れる傾向が強まっています。中小企業は、長期的なキャリアパスや職場環境を魅力的にアピールする必要があります。
採用戦略の見直し
中小企業はこれらの課題を克服するために、採用戦略の見直しと新たな取り組みが求められています。大きく分けて3つに分類します。
- 企業文化の明確化と発信: 自社の企業文化や価値観を明確にし、それを求職者に伝えることが重要です。働きやすい環境を整えることは、どの企業にとっても必要な施策になります。
- 柔軟な雇用形態の導入: 正社員だけでなく、契約社員やパートタイム、リモートワークなど多様な雇用形態を用意することで、求職者のニーズに応えることができます。もちろん、既存社員との調和を鑑みたうえで実行してください。
- 教育・研修制度の充実: 採用した人材に対する教育や研修を充実させることで、社員の成長をサポートし、長期的な雇用を促進することができます。
採用ミスマッチを防ぐための7つの取り組み
1. 明確な職務内容の定義
- 職務内容や役割、求められるスキル・経験を具体的に明示し、求職者が自分に合うか判断しやすいようにします。評価制度が整っていれば、併せて説明をし、給与の内訳をお互いに認識しておくことがポイントです。
2. 企業文化の情報提供
- 自社の企業文化や価値観、働く環境について詳しく説明し、透明性を持たせることで、求職者が自分に合った職場かを判断しやすくします。ここでは、MVVや人事ポリシーが役に立ちます。スタンスを明確に示すことが重要です。
3. 適性検査の実施
- 専門的な適性検査や性格分析を導入することで、求職者のスキルや性格が職務にマッチするかを事前に評価します。また、既存社員の分析を済ませておくことで、マッチするかどうかの判断基準の一つとなります。
4. 面接プロセスの工夫
- 複数の面接官による多面的な評価や、グループディスカッションを導入することで、求職者の実際の能力や人間関係のスキルを見極めることができます。可能な限り直属の上司となる方も面接をすることを推奨します。
5. 内部研修や体験入社の導入
- 求職者に自社での短期間の体験入社や研修を行わせることで、実際の職場環境や業務内容を理解してもらい、相互のミスマッチを減少させます。
6. フィードバックの活用
- 採用後に社員からフィードバックを収集し、職務や環境に対する満足度を測定することで、組織内の問題点を早期に発見し改善します。会社として、一定の期限を設け制度として運用することがポイントです。
7. 明確なキャリアパスの提示
- 社員に明確なキャリアパスや成長の機会を示すことで、求職者が長期的な視点で入社を検討できるようにします。これについては、評価制度を構築し運用していれば、問題ないかと思います。
ミスマッチを防ぐために、面接前に出来ること
1. ターゲットオーディエンスの特定
- 求人を見てほしいターゲット層(経験者、新卒者、特定のスキルを持つ人材など)を明確にします。これにより、適切なメッセージを作成できます。ペルソナ設定をするためにも自社の人事ポリシーを作成しておくことが重要です。
2. メッセージの明確化
- 明確で具体的なメッセージを作成します。作成の際には以下のポイントを盛り込みます。
- 職務内容や役割の詳細
- 求めるスキルや経験
- 自社の企業文化や価値観
- 業務に関連する実績や具体例
- 一日の業務の流れ
- 従業員のインタビュー
3. 告知チャネルの選定
- 告知チャネルは下記のように多岐に渡ります。いずれにしても、自社のスタンスを明確に打ち出すことがポイントです。
- 自社のウェブサイト: 求人情報を丁寧に掲載し、応募者が内容を理解できるようにします。
- 求人サイト: 大手の求人情報サイトや専門の職業紹介サイトに情報を掲載します。
- SNS: Facebook、Twitter、LinkedInなどを活用し、広く情報を発信します。特にビジュアルや動画を使うと効果的です。
- 大学や専門学校との連携: 現役の学生を対象としたポスターや説明会を行い、直接アプローチします。
4. フィードバックの呼びかけ
- 求人に対する質問やフィードバックを受け入れる体制を整え、求職者が気軽にリーチできるようにします。これにより、候補者とのエンゲージメントが高まります。リソースの少ない中小企業においては、この機能を持つことはなかなか難しいかもしれませんが、余裕があれば行っておくと良いでしょう。
5. 実働体験のプロモーション
- 体験入社やインターンシップのプログラムを明確に告知し、実際の業務を体験できる機会をアピールします。これにより、候補者は自分に合った環境かどうかを判断することができます。
6. 定期的な情報発信
- 採用活動に関するブログやニュースレターを定期的に発信し、企業の状況やキャリアパスなどについての情報を提供します。自社のスタンスを継続的にアピールします。
7. リファラル採用の活用
既存社員は自社のことをよく理解しているので、どのような人材がマッチするかを判断できる可能性が高いはずです。既存社員に紹介してもらえるような組織作りが肝心です。
それでも、ミスマッチが起きた場合
事前対策を十分に行っても、採用ミスマッチが起きた場合、その従業員に対して行うべき施策はどのようなものがあるのでしょうか。下記を参考にしてみてください。
1. オープンなコミュニケーション
- 定期的な面談を通じて、従業員の感じている問題や不満をオープンに話し合います。相手の意見を尊重し、真摯に耳を傾ける姿勢を大切にします。解決するべき課題であれば、解決してください。解釈の違いによる問題であれば、会社のスタンスを明確に示すことが重要です。
2. 適切なフォローアップ
- 従業員が職務に対してどのように感じているかを把握し、初期の適応状況をさらに見守ります。必要に応じて、研修やサポートを提供します。職務に関して、ズレが生じている場合は、基準が曖昧になっているかを確認してみてください。
3. 役割の再評価と調整
- ミスマッチの要因を特定し、それに応じて役割や業務内容を調整します。従業員の長所を活かす新たな職務やプロジェクトを提供することも考えます。目標設定が高すぎる場合は、下げることも検討してみてください。
4. 教育・トレーニングの提供
- 課題となっているスキルや知識を強化するためのトレーニングプログラムを提供します。従業員が成長できる環境を整えることが重要です。育成スケジュールがあれば、進捗具合を測れます。
5. メンタリング制度の導入
- 経験豊富な既存の従業員と新しい従業員をつなげるメンタリング制度を導入し、職場環境に順応する手助けをします。メンターが上司と違う場合は、役割をきちんと分けることがポイントです。
6. キャリアパスの見直し
- 従業員が望むキャリアパスや成長の機会を確認し、動機付けを高める施策を講じます。個々の目標に合った育成計画を立てることが重要です。
7. 定期的なフィードバック
- 定期的に業務評価を行い、進捗状況に関するフィードバックを提供します。従業員が自分の成長を実感できるようサポートします。
8. 従業員の意見を反映
- 従業員からの意見やアイデアを取り入れてみるのも大事です。職場環境や業務フローの改善に活用してみてください。従業員が自己の意見が尊重されていると感じることが重要です。
9. 場合によっては異動の検討
- ミスマッチが解消できない場合や業務への適応が難しい場合は、部署間の異動を検討することも考えます。従業員にとって最適な職場環境を提供することが大切です。異動の際には問題が起きないように異動のルールをあらかじめ設定しておくことが大切です。
これらの施策を通じて、ミスマッチによるネガティブな影響を最小限に抑えることができ、従業員のモチベーションや業務パフォーマンスの向上につなげることができます。